どぶろく杜氏座談会〜どぶろくと語る〜








テーマ1 飯豊町の魅力とは?

進行:年間105万人の観光客が訪れる飯豊町ですが、みなさんがどぶろく杜氏(杜氏)、サービス業をなされ、生活の拠点として暮らされている飯豊町の魅力といったら何だと思いますか?

安部:沢山あります。まず、飯豊町の「米」。つや姫やこしひかりなど色んな品種のお米が作られているわけですが、新しい品種が出る度、美味しい物が出来るというのは、凄いと思います。それから「水」です。また、大自然に恵まれた中津川地区は今では採る方が少なくなり幻の山菜と言われるヤブワラビなど「山菜」が豊富で魅力です。

山口:私は進学・就職と一度地元を離れ三年前に戻ってきました。戻って来て改めて感じたことなのですが、散居集落であり自然豊かで「米」「水」が美味しいということです。これは、最後には“どぶろく”が美味しいということに繋がるのかもしれません。また、飯豊山や蔵王山・吾妻山などの素晴らしい山々に囲まれた景色があるというのも恵まれた場所だなと思います。

進行:山口さんがおっしゃった散居集落の景観に関わることなのですが、飯豊町は、
平成5年に『美しい日本の村景観コンテスト』の最優秀賞にあたる農林水産大臣賞を受賞しています。飯豊町は四方を蔵王・吾妻・朝日連峰・飯豊連峰の2,000m級の山に囲まれています。その為、夏は暑いのですが、それが寒暖差を生み、基牛(もとうし)が飯豊の「米沢牛」や「米」「水」そして「どぶろく」の美味しさに繋がっているのかもしれませんね。





高橋:私も地元を離れたときに感じたことなのですが、地元から一時間も離れていない所なのに食べ物でもお水でも
味が全く違うことに驚きました。また、朝起きて顔を洗うときでもお水の違いが分かるんです。肌が良くなりますし、水の軟らかさも違うんです。また、お米を炊いたときでも炊き上がりが全然違います。私は今、三歳になる子供がいるのですが、地元の水や自然の影響か他の子と成長が違うような気がします。子供が成長する過程で自然は大切なんだと母親になって感じていますし、大事にしていきたいと思っています。






テーマ2 どぶろく杜氏になったキッカケ

進行:「米」と「水」が美味しく、自然が豊かな散居集落という飯豊町ですが、そんな中でなぜどぶろく杜氏を目指したのか、キッカケなど教えていただけますか?

安部:まず、飯豊町さんが「どぶろく特区」を受けたことから始まって、各施設に通達したところ当旅館と緑の故郷公社、さんの2社だけが名乗りをあげました。その際に杜氏としてやってほしいと私の名前が挙がったことがキッカケです。どぶろくを作り始めた初年度、お客様にお出ししてみると「こんなもの飲めるか」「金返せ」などの大変厳しいお言葉をいただきました。そんなことがあってから、私は根っからの料理人ですので、職人としてこれを突き詰めたい、挑戦したいという思いになり努力しました。私の師匠はお客様だと思っているのですが、お客様に教えられ怒られながら、今の私のどぶろくが出来上がりました。

進行:そんなご苦労をなされ、今では『全国どぶろくコンテスト最優秀賞』を二年連続で受賞されるまでになられたということですね。全国どぶろく研究大会というものが毎年一回あるんですよね?勝見さんご説明いただけますか!?

勝見:『全国どぶろく研究大会』という、どぶろくの美味しさを競い合う全国大会がありま
して、元々は岩手県の遠野市から始まった大会です。東北で一番最初に「どぶろく特区」を取ったのが遠野市なんです。そして、飯豊町は東北で二番目に取ったという歴史があります。今では100以上のどぶろく特区がある中で一番を目指して全国各地からどぶろくを持ち寄って競い合うという大会です。飯豊町では、第四回目の大会を開催させていただきました。今年度は、四国・愛媛県の東温市で開催されることになっています。今年度も飯豊町からは、がまの湯さんと緑のふるさと公社さんが出場なされ上位を目指すということになっています。



山口:私が飯豊に戻って来るとなった時には、既に『全国どぶろくコンテスト最優秀賞』を受賞した後でしたので、安部
専務が作り上げたがまの湯のどぶろくの味を杜氏になって受け継いで欲しいと言われたのがキッカケです。どぶろくというか、日本酒自体あまり飲んだことが無かったので最初は味に抵抗があったのですが…。

安部:最初どぶろくを飲ませたときは、「もっと美味そうな顔をしろ」というような顔をしていたんですが、最近は味にこだわってきたのか、三年も経つと違ってきたみたいです(笑)



高橋:私は21歳の時に杜氏になってから5、6年になります。家族がお酒が好き
だったということもあって、私自身もお酒が凄く好きで色んな種類のお酒を飲むようになって、自分に一番しっくりきたのが日本酒でした。季節によって甘口を選んだり、辛口を選んだりと日本酒を楽しんでいた頃に杜氏にならないかというお話をいただいて、「自分で飲むお酒を作れるんだ」「楽しそう」と思い杜氏になったのが最初です。






テーマ3 どぶろくへのこだわりと今後の目標

進行:それぞれのどぶろくへのこだわりなど教えていただけますか?

高橋:最初は、女性向けの甘くてサラッと呑めるどぶろくを造ることが目標でしたが、最近ではお酒好きな
方がうなるようなどぶろくを造るのが目標です。初めの頃は、普通のお米を使用していたのですが、お酒に適したお米を使うようになりました。酒米『出羽燦々』を使用すると、水にも溶けやすく、発酵もスムーズにいくので、アルコール度数は上がりますが最初の頃とは味の滑らかさが違うんです。





安部:私は、飯米や『出羽燦々』や『出羽の郷』などの酒米は勿論、もち米など様々なものを試しました。そして、酒米がやはり一番良いかなと思ってはいますが、まだ少し試行錯誤しています。また、旅館や販売会などでお客様と直接お話しする中で、気付いたことがあります。
お客様が全種類のどぶろくを試飲された後、手にするのがほとんど甘口のどぶろくだったんです。ですから、今後は研究を重ね酒通がうなる丁度良い辛さのどぶろくを造っていきたいと思っています。“売れるどぶろく”から“こだわりのどぶろく”へとしていきたいと思っています。




山口:自分は、安部専務に教わりながら同じ場所でどぶろくを作っているので、方向性は同じにして行きたいと思っています。ただ、安部専務とは年齢が違うので、自分なりのどぶろくの味が出せればと思っています。

テーマ4 どぶろく特区

進行:飯豊町がどのようにして、どぶろく特区を採るに至ったのか、ご説明いただけますか?

勝見:飯豊町は大変な豪雪地帯の為、冬場の観光客が減ってしまうという状況になります。具体的には、年
間で約100万人を超えるほど観光客が来ておりますが、12月〜3月の4か月間は、年間の20%にも満たない数のお客さんしか来ていないという状況です。そこで、このような状況を打開したいということで、米と水が美味しい飯豊町でお酒を造ろうと「どぶろく」に着眼したわけです。ちょうどその頃、『構造改革特区』という制度が出来た時でした。簡単に言いますと、「法律等で縛りがきついことでも、こんな事がしたいんだという地域の意気込みがあれば、ある程度法律等も緩和してあげますよ」というような制度です。そして飯豊町は酒税法という法律を少し緩めていただいて、どぶろくを造れる地域ということで平成16年3月に認定をいただきました。ただし、飯豊町であれば誰でもどぶろくを造れるというわけではありません。きちんと免許を取って、研修を受けて、売買するのであれば税務署に届出をするという手続きを踏んだ方だけが造れるということです。そして、飯豊町はどぶろくのみを造ってきたわけではありません。どぶろくを更に利用した容で、和菓子や洋菓子のスイーツや、どぶろくラーメンなどを開発して提供されている施設もあります。また、寒くなる毎年この時期に『どぶろく新酒発表会』を開催し町内外に広くアピールしているところです。

進行:何か苦労された点はありますか?

勝見:最初苦労した点は、若い人などにどぶろく自体の知名度が低いということでした。そこで、まずはどぶろくを知ってもらう為の周知広告から始めなければならず、魅力を伝えるのにはどうしたらいいのか悩んだということはあります。

テーマ5 どぶろくの未来



進行:どぶろくを製造する施設として、今後どぶろくをどう発展させていくのか、集客などの戦略も含め教えていただけますか?

安部:私個人としては、大都会のクラブのカウンターでどぶろくが飲まれる位の高級酒に発展すれば良いなと思っています。また、原点として飯豊町に来ていただき、各施設に泊まっていただいて、どぶろくを味わっていただくというものがありますので、一般の方も高級志向の方も幅広くどぶろくを楽しんでいただけるようにブランド化していきたいと思います。

山口:現在も行っているインターネットなどの幅広いPRだけでなく、韓国のマッコリや日本酒との違いを
「どぶろくは醪(もろみ)が残っているから、アミノ酸が多く含まれ、適量を飲めば美容や健康に良いんだ」ということを特に女性にターゲットを絞ってアピールしていきたいと考えています。

高橋:今では、どぶろく特区になっている地域が多くなってきたので、どぶろく単体で売っていくのは難しくなって来ました。その為、どぶろくを使った料理などを開発してアピール出来ればと思っています。実際に白川荘では、従業員全員で案を出し合って、どぶろく料理やどぶろくのお菓子などを開発しているところです。

進行:今回、飯豊町の菓子の丸屋さんに、どぶろくどら焼き・どぶろくもなか・どぶろくまんじゅうなどをご提供いただきまし
た。この他にも飯豊町にはどぶろくカレーやどぶろくケーキなど沢山のどぶろく関連製品があります。これからもどぶろくを使った商品開発が必要になって来ると思いますが、飯豊町としては、民間の方々にどういったビジネスチャンスを与えていくのか等を含めながら、どぶろくを使ってどういった事をしていくのか戦略など教えていただけますか?









勝見:どぶろくの広報宣伝と、更にどぶろくを絡めた飯豊町の魅力をアピールする宣伝とが必要になってくると考えています。飯豊町はどぶろく特区を採って8年になりますが、どぶろくだけでも様々な種類があります。また、どぶろくを使った食べ物も沢山あるのですが、それが上手く広報と絡んでいないところがあります。そこで、どぶろく単体だけの魅力に頼る広報ではなく、雪中田植えなどの体験や年中行事のヤハハエロなどを含めて、『飯豊町冬の玉手箱』というような感じで、その他の飯豊町の魅力と併せて広くアピールしていきたいと考えています。

山口:例えばですが、飲食店それぞれで商品開発をするだけでなく、どぶろくを使ったB級グルメを開発して、町の各飲食店で提供して、町全体で「どぶろくは飯豊町」を根付かせてアピールするというのはどうでしょう?

進行:今、B級グルメは流行りなので、乗っかってみるというのもいいかもしれませんね。そして、行政は行政にしか出来ないことを支援していただき、民間は足並みを揃えながら更なる商品開発をしていくことで、両者の良い所を併せて「飯豊町の新たな宝」を創っていくというのも良いのかもしれません。

テーマ6 各施設のPR

進行:最後に各施設のPRをどうぞ。

安部:今回の座談会の会場にも使われていますが、がまの湯温泉いいで旅館には、古民家を改築した別亭・がま亭が御座います。飯豊の旬の食材をふんだんに使用した料理を提供するレストランも併設され、座敷では宴会・法要・御婚礼など、様々な用途でご利用になれます。また、二階にはイベントスペースもあり、お芝居の興行が来たりすることもあります。この建物の『別亭 遊鯉龍門 がま亭』とう名前は片岡鶴太郎さんに名付け親になっていただきました。そして、名前の由来にもなった108匹の鯉が描かれた縁起の良い屏風も玄関前に飾られているので、ご覧になることが出来ます。伝統ある源泉を使用したお湯が魅力の本館では、美味しい料理と美味しいどぶろくを味わいながら、ゆったりと過ごすことが出来ますので、是非一度、足を運んでいただければと思います。

高橋:白川荘では、自然が豊富なのが魅力の一つですが、特に5月6月の山菜が出るシーズンになると様々な山菜料理をご提供させていただいておりますので、お客様には大変ご好評をいただいています。また、自然豊かな景色を楽しみながらお食事をしていただきたいということから、昨年、食堂の見晴らしが良くなるように改築をしました。そして、従業員一人ひとりが、料理に使用するマツタケなどの説明をお客様に出来るようにしておりますので、今までと違った白川荘をご覧になれると思いますので、是非お越しいただければと思います。

進行:ありがとうございました。どちらの旅館も、明るく楽しい人がいて、美味しい料理とお湯があって、そして、「どぶろく」を味わえるということですね。そんな魅力をこれからもっともっと発信出来ればと思います。「どぶろく」と一言で言っても、その裏には杜氏さんの大変なご苦労があって、その結果お客様に喜んでいただいています。その中で新しい商品が開発されたり、新しいビジネスが生まれたりするような流れが飯豊町として出来ればと個人的に思います。飯豊町には、綺麗な「水」があって、心を込めた「米」があって、「散居集落」などの自然豊かな景色があって、そこに杜氏さんたちをはじめとする魅力的な人達が沢山います。そんな『良い人・良い四季・飯豊町』と言われる飯豊町に是非、美味しいどぶろくを飲みに来ていただきたいと思います。皆さんありがとうございました。

          



◎座談会出席者(敬称略)
上記写真左から…二瓶裕基(飯豊町観光協会)  勝見賢太郎(飯豊町産業振興課商工観光室主任)  安部政敏(がまの苦湯温泉 いいで旅館 専務)  高橋千佳(白川温泉いいで 白川荘 調理部)  山口剛(いいで旅館 がま亭 館長)

◎執筆者:清水晶(置賜文化フォーラム)

◎取材協力及び関連ホームページ:がまの湯温泉 いいで旅館
                       白川温泉いいで 白川荘
                       飯豊町産業振興課商工観光室
                       飯豊町観光協会
※飯豊町観光協会ではUstream(ユーストリーム)にて、座談会の当日の様子をご覧になることが出来ます。

◎商品提供:菓子の丸屋

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